大判例

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仙台高等裁判所 平成5年(ネ)231号 判決

第一審原告

室瀬一郎

小川良逸

藤井次男

徳差幸廣

杉山俊雄

川端節三

右六名訴訟代理人弁護士

渡辺義弘

横山慶一

上条貞夫

山田忠行

小野寺義象

第一審被告

株式会社みちのく銀行

右代表者代表取締役

大道寺小三郎

右訴訟代理人弁護士

渡辺修

吉澤貞男

主文

一  原判決中、第一審原告小川良逸、同藤井次男、同徳差幸廣、同杉山俊雄及び同川端節三の、第一審被告から右第一審原告らに対する各専任職への辞令の発令が無効であることの確認を求める請求を棄却した部分を取り消し、右部分につき右第一審原告らの各訴えをいずれも却下する。

二  その余の部分につき、第一審原告らの控訴(当審における請求の拡張部分を含む。)をいずれも棄却する。

三  第一審被告の控訴に基づき、原判決主文第二項を取り消す。

四  前項の部分につき、第一審原告らの請求をいずれも棄却する。

五  第一審被告の仮執行の原状回復申立に基づき、第一審被告に対し、第一審原告室瀬一郎は五三七万二一二〇円、第一審原告小川良逸は三五四万五八六〇円、第一審原告藤井次男は二八七万〇五三〇円、第一審原告徳差幸廣は一五九万円、第一審原告杉山俊雄は一三二万六二八〇円、第一審原告川端節三は三二万五二〇〇円及び各金員に対する平成五年三月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  第一審原告ら

(控訴の趣旨)

1 原判決を次のとおり変更する。

2 第一審被告の第一審原告室瀬一郎(以下「第一審原告室瀬」という。)に対する昭和六二年一一月一日付けの専任職への辞令の発令及び昭和六三年四月一日付けの新専任職制度に基づく給与辞令の発令がいずれも無効であることを確認する。

3 第一審被告の、第一審原告小川良逸(以下「第一審原告小川」という。)に対する平成元年三月一日付けの、第一審原告藤井次男(以下「第一審原告藤井」という。)に対する同年五月一日付けの、第一審原告徳差幸廣(以下「第一審原告徳差」という。)及び第一審原告杉山俊雄(以下「第一審原告杉山」という。)に対する各平成三年二月一日付けの、並びに第一審原告川端節三(以下「第一審原告川端」という。)に対する同年一二月一日付けの、各専任職への辞令の発令がいずれも無効であることを確認する。

4 第一審被告との間において、第一審原告徳差が原判決添付の別紙1(三)記載の、第一審原告杉山が同(四)記載の、及び第一審原告川端が同(五)記載の、各賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を有することをそれぞれ確認する(なお、第一審原告小川及び第一審原告藤井はいずれも当審において右部分についての訴えを取り下げた。)。

5 第一審被告は、第一審原告室瀬に対し一二六五万二〇二〇円を、第一審原告小川に対し二〇一九万七一四〇円を、第一審原告藤井に対し一二四七万三九三〇円を、第一審原告徳差に対し一九六二万六八六七円を、第一審原告杉山に対し一三九七万六七七四円を、第一審原告川端に対し一四二三万九二〇〇円をそれぞれ支払え(第一審原告室瀬を除く第一審原告らはいずれも当審においてその請求を拡張した。)。

6 訴訟費用は、第一、第二審とも第一審被告の負担とする。

7 5項につき仮執行の宣言

(第一審被告の後記控訴の趣旨に対する答弁)

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は第一審被告の負担とする。

二  第一審被告

(控訴の趣旨)

1 原判決主文第二項を取り消す。

2 前項の部分につき、第一審原告らの請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告らの負担とする。

(第一審原告らの前記控訴の趣旨に対する答弁)

1 本件控訴(当審における請求の拡張部分を含む。)をいずれも棄却する。

2 控訴費用は第一審原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり原審における主張を変更、追加するとともに、当審における主張を付加するほか、原判決事実「第二 当事者の主張」摘示のとおりであるから(ただし、原判決一四丁裏三行目「貸金需要」とあるのを「資金需要」と、二三丁表八行目「六五〇〇円」とあるのを「六万五〇〇〇円」と訂正する。)、これを引用する。

《第一審原告ら》

一  原審の主張の変更、追加

1 第一審原告小川は平成六年二月二五日に、第一審原告藤井は同年四月二日に、それぞれ第一審被告を定年により退職した。

2 第一審原告小川、同藤井、同徳差、同杉山及び同川端は、いずれも専任職の発令を受け、「新専任職制度」の適用を受けたことにより、その発令、適用を受けなかった場合に比較して、原審で請求した翌月の平成四年四月から平成六年三月まで(第一審原告小川については定年退職した同年二月まで)の間に、本判決添付の別紙1及び2ないし5の各(一)記載のとおり、第一審原告小川については一〇二一万二八〇〇円、第一審原告藤井については六三七万〇四〇〇円、第一審原告徳差については一〇四一万九六〇〇円、第一審原告杉山については七四四万〇四〇〇円、第一審原告川端については八九九万六〇〇〇円のそれぞれ賃金等の削減を受け、さらに、平成六年四月から平成七月三月までの間に、同別紙2ないし5の各(二)記載のとおり、第一審原告藤井については七七万〇六〇〇円(退職後の平成六年六月分の賞与)、第一審原告徳差については五三六万五八〇〇円、第一審原告杉山については三八五万三〇〇〇円、第一審原告川端については四六三万八〇〇〇円のそれぞれ賃金等の削減を受けた。

3 よって、第一審原告らの各専任職発令時から平成七年三月まで(第一審原告小川及び同藤井については退職時まで)の賃金等の削減額の総合計は、第一審原告小川につき二〇一九万七一四〇円、第一審原告藤井につき一二四七万三九三〇円、第一審原告徳差につき一九六二万六八六七円、第一審原告杉山につき一三九七万六七七四円、第一審原告川端につき一四二三万九二〇〇円となるので、第一審原告らはそれぞれ第一審被告に対し、右の各金員の支払を求める。

二  第一審原告らの当審における主張

(原判決の不当性に関して)

1 原判決は、第一審被告において、就業規則上一度管理職等になれば、その地位が保障され降格されないという規定はなく、使用者は個別の人事権を行使することにより、本件専任職制度と同様の人事配置を実質的に行うことも可能であったという判断をした。

しかし、第一審被告の就業規則には降格処分に関する規定が存在し、そこには降格の理由について、「能力の著しい低下により、当該役職の職務職能基準書に基づく水準の職務を遂行することが困難と認められる場合及び懲戒により降格処分を受けた場合」と明確に規定されている。したがって、原判決が述べるように、使用者が個別の人事権を行使することにより、本件専任職制度と同様の人事配置を行うことなど軽々しくできるものではない。第一審被告の行員は、入行後、一般職階、監督職階、管理職階と昇格し、昇格については、「役職別職務職能基準書」に基づいて厳正に実施され、使用者の恣意的な昇格が排除されている。

2 原判決は、本件専任職制度の実施について、管理職階又は監督職階の地位にあった従業員にとっては仕事の内容が変わるのみで、人事面における降格という性質を有しないことを考慮すると、専任職制度の創設によって労働者の受ける不利益の程度はさほど大きくないことを合理性がある一つの理由としている。

しかし、第一審被告においては、ほとんどの行員が五四歳時に管理職階あるいは監督職階まで昇格しており、本件専任職制度の実施は、ほとんどの行員にとって降格処分に該当し、そのことによる不利益は決して小さくない。

3 原判決は、新専任職制度を合理化するに当たって、当初の専任職制度には必要性及び合理性が認められるから、新専任職制度により第一審原告らが被ることになった不利益の程度については比較すべきものは、第一審原告らが発令されなかった場合ではなく、当初の専任職制度のもとで新専任職に発令された場合であるとしている。

しかし、右の論理を前提とすれば、制度を次々に変更して、従前の制度との不利益の差が小さければその合理性が肯定されることになり、その結果、専任職制度導入前と比較していかに不利益の程度が大きくなろうと合理性が肯定されることになり、不当といわなければならない。

(専任職制度・新専任職制度導入の必要性に関して)

1 就業規則の不利益変更が、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に実質的な不利益を及ぼす場合には労働者にこのような不利益を法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性が必要であり、その必要性の判断は厳格になされるべきである。仮に、第一審被告に賃金体系の変更を含む人事制度の見直しをする必要性があったとしても、これをもって直ちに専任職制度導入の必要性に結び付けることはできない。

2 第一審被告が、合併直後からいわゆる「高コスト問題」等について検討してきた経緯があることは認めるが、その際、検討されていた案は、一定の年齢に達した管理職を管理職から外す、「管理職定年制」であり、本件のような一般的な専任職制度ではなかったのである。ちなみに、専任職制度導入後の人件費は、賃上げ等によりわずかながら伸びているが、同時期の物件費は大きく伸びている。第一審被告は、高コストの改善のためには、物件費に関してできる限りの圧縮に努めてきたとして、残る方法として人件費の削減を図る以外にないと主張してきたが、誤りであることが明らかとなった。

3 第一審被告は、行員の年齢構成が高齢化の方向で進展し従来の役職制度のままでは若手行員の士気をそぐことになりかねない反面、いったん管理職になったとしても、管理職が多数いるため仕事の内容が必ずしも管理職に相応しいものにはならないことから、管理職行員のやる気をそぐことにもなり、結果として人事の停滞による組織の硬直化と企業活力の低下を招くことが予想されたので、このような事態の発生を防ぐ必要があったと主張するが、これは第一審被告における役職制度と管理職制度との関係を誤解したものである。すなわち、「管理職階」に昇格する人員については定員というものはないのであり、役職別職務職能基準書に基づいた厳正な判定により、行員は「管理職階」に昇格することが可能であった。したがって、従前から第一審被告において、「管理職階」にあっても管理職の地位につけなかった行員は少なからず存在したのである。

4 本件の各専任職制度を導入する必要性が全くなかったことは、第一審被告の経営分析からも明らかである。

(一) 第一審被告は、当時順調に収益力を伸ばしている。すなわち、合併直後の昭和五一年度を基準に考えると、経常収益においても預金においても着実に増加し、専任職制度導入の前年である昭和六〇年度には二倍前後まで増加しており、その後も着実に増加しているから、専任職制度を導入しなければならないような将来にわたる業績に対する不安は全く存在していなかった。

(二) 第一審被告は利益の面でも増加させている。すなわち、第一審被告は、粗利益ともいえる経常総利益を確実に増加させており、経常総利益は昭和六〇年度においては昭和五一年度に比して約1.7倍に増加している。経常総利益の計算には、人件費は含まれておらず、人件費の節約と全く関係がないのであり、それにもかかわらず経常総利益が増加していることは、大幅な人件費を削減する必要性は存在しなかったことを示すものである。すなわち、専任職制度を実施する必要性はなかったのである。

(三) 昭和六一年度から平成五年度までの経常収益累計額は、五七三三億八一〇〇万円、経常総利益の累計額は二二四五億五三〇〇万円であり、専任職制度実施による賃金削減額は四四億円余りであり、専任職制度実施による人件費削減の額は取るに足らないものと評価することができ、専任職制度を実施しなくても、第一審被告の経営を脅かす事態にはならないことも明らかである。また、各種利益が増大してきたことにより、内部留保を増大させており、昭和五一年度と比較し昭和六〇年度には約2.3倍に増加させている。さらに、増資や転換社債の資本への転換を実施したこともあって、自己資本も充実させてきており、その点からも専任職制度を実施する必要性はなかった。

(四) 以上のように、第一審被告の業績を計る各種の指標をみる限り、専任職制度を実施しなければならない必要性はなかったものである。にもかかわらず、敢えて第一審被告が専任職制度を実施したのは、「金融の自由化・国際化の進展」等を口実にして一層の利益の追求を図ったからというべきである。

(内容の合理性に関して)

1 第一審被告は、経費節減のため、あるいは人件費配分の是正のために必要だというが、そのことによって高齢者である行員が現実に被る不利益、すなわち既得権侵害が、なぜ五五歳という年齢を基準として実施されるのかについての説明はなされていない。むしろ、長い年月にわたる銀行業務の中で、多くの経験を積んできた五五歳以上の行員こそ、銀行の中で様々な能力を発揮することのできる場面が少なくないのであり、そうした行員の能力を引き出すことこそ適切な労務政策というべきである。それにもかかわらず、第一審被告は、他の地方銀行が六〇歳定年制を採用するに際して、コストの増加を圧縮するために、五五歳以上の賃金を五四歳時の賃金の四〇パーセント程度に押さえ、それとともに賃金減額の合理性を根拠付けるために業務内容を従前の業務内容と切り離された簡易なものとする制度を作り出し、これに便乗して理由のない合理化策の一環として本件専任職制度を導入したものである。

2 近年の国際社会において、一九四八年の世界人権宣言、一九六六年の経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(通称A規約)並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約(通称B規約)、一九八〇年の高齢労働者に関する勧告(ILO第一六二号勧告)など、様々な国際条約や勧告の中に、新たに高齢労働者の人権保障の規定が盛り込まれるに至った動向がある。当初の専任職制度及び新専任職制度は、これらの国際条約や勧告の規範的効力に違反した内容を有するものであり、高齢者の人権保障の観点からも合理性を有しない。

3 第一審被告における役職制度の中で、専任職階は、「所属長が指示する特定の業務又は専門的業務を遂行することを主要業務内容とする職位であり、特定の集中業務、特殊債権の管理業務、特殊先の渉外業務などの職務」につくものと規定されている。

しかし、第一審被告の実際の勤務状況の中において、「特定の集中業務、特殊債権の管理業務、特殊先の渉外業務」というものは独立しては存在しない。例えば、専任職の仕事の一例とされている「集金専担」についても、集金だけの仕事をするわけではなく、一般行員の「渉外係」の仕事と仕事内容は異ならない。そもそも、第一審被告においては、専任職に発令されている行員を含めた人員体制でその業務全般の処理がされており、専任職の発令に伴い、何らかの人員措置が取られた例は少ない。専任職に発令された者の大部分は、従前と同じ仕事や他の一般行員が担当していた仕事を行っており、専任職の業務として規定されている内容は、実体を伴わない机上の空論にすぎないものである。

4 専任職制度導入後、現在に至るまで、第一審被告で現実に行われている業務は、この制度導入前とほとんど変わらない人員体制で行われている。また、専任職に発令された者の職務の内容についても、発令前の職務内容とほとんど同一であり、時には、実質的に、発令後の方が労働強化となっているという実態がある。当時から、専任職に発令された行員も含めた人員体制で業務が営まれているのであるから、発令された者に実質的に従前とほとんど同じ業務を行わせなければ、第一審被告の銀行業務自体が動かない状況にあった。右のような実施後の状況から明らかなように、第一審被告において、そもそも専任職制度を導入する必要性及び合理性がなかったものである。

5 第一審被告が新たに導入した専任職制度には、その実施後において、五五歳に達しても、専任職に発令されない者が多数存在し、また、非発令期間も長期に及ぶという例外が常態化し、その例外的取扱いが何ら是正されず放置され、専任職発令と非発令を区別する基準も曖昧な状況にある。このような例外が常態化していることに照らすと、第一審被告が専任職制度を導入することの合理性及び必要性があったのか、大いに疑問があるといわなければならない。

(賃金減額の違法性、不当性について)

1 基本給(本給と業績給)凍結の違法性、不当性

(一) 同一労働が維持されている場合には、合理的な理由なく賃金引下げがなされるべきではないところ、専任職制度で導入された基本給の凍結は、実質賃金の引下げをもたらすものであり、その不利益が少ないとは到底いえない。とりわけ、第一審被告は、従来、第一審原告らの所属するみちのく銀行従業員組合(以下「従組」という。)が賃金の増額を要求した際、六〇歳定年制を持ち出し、生涯賃金総額では青森銀行と同一年齢における賃金を同一水準にすることを拒否してきた経緯があり、基本給の凍結は、生涯賃金の総額を減少させるものであり、その不利益が小さいとして容認することはできない。

(二) 第一審被告の行員の多くは、住宅取得や教育費等の生活費を六〇歳定年時までの期間で返済する計画を立てており、五五歳以上の基本給が凍結されることは、就学中の子を抱えていることや物価上昇とも相俟ってその返済計画に大きな支障をもたらし、その不利益は決して無視できないものである。

(三) 第一審被告において、毎年ベースアップが行われており、基本給の凍結を受けることは定年に達するまでは基本給が増額するという行員の権利を侵害するものである。とりわけ、業績給は、定年まで定期昇給が給与規程上明確に保障されていたものであり、単なる期待権ではなく、労働契約の内容として確固たる権利として確立されていたのであり、それを凍結した専任職制度は重大な権利侵害である。

2 業績給削減の違法性、不当性

(一) 第一審被告は、業績給を削減したことについて、業績給が当該行員の職務遂行能力の発揮度合に応じて決定される職能給の性格が与えられていることを理由として、専任職移行に伴い業績給を削減することには合理性がある旨主張する。

(二) しかし、第一審被告の実際の勤務状況において、前記のとおり、所属長が指示する特定の業務又は専門的業務を遂行することを主要業務とするような職種は、その人員体制からいっても、存在する余地はない。また、専任職の発令を受けた者の大部分が、発令を受けていない行員が従前に行っていた仕事と同様の仕事を行っているという実態に照らすと、第一審被告の主張は理由がない。そもそも、降格処分と異なり、使用者が何の理由もなしに行員を下位の職階に移行させることはできない。

3 役職手当廃止・専任職手当削減及び廃止の違法性、不当性

(一) 第一審原告らは、本件就業規則の改定によって、従来は六〇歳まで保障された役職とそれに伴う手当を失った。これは、第一審原告らにとって重大な労働契約上の既得権の侵害に外ならない。役職手当は、基本給の重要な部分であったのであり、それに代わる専任職手当も基本給の重要な部分を構成するものである。すなわち、役職手当は、役職制度上の監督職階の主任に昇格すると支給されるようになるが、ほとんどの行員は三〇歳前後で主任に昇格するのであり、それ以降定年までの約三〇年間、額こそ高低はあるが、役職手当が支給されることになり、行員は役職手当を含んだ給与を前提に生活設計を立てているので、第一審被告の給与体系の中で給与の重要部分を占めていた。また、「役職」は、実質的に職能資格制度の資格の性格を持つものであり、「役職手当」は資格給的な性格を有するものである。したがって、第一審被告における「役職」は使用者が個別的な人事権の行使によって自由にできるものではなく、それが可能である「管理職」とは異なっている。専任職制度は、いわゆる「管理職定年制」とは全く異なっているのである。

(二) また、第一審被告の「役職制度運用規程」(従来の「資格別職務基準」と同一のもの)によると、役職の降格は、「能力の著しい低下により、当該職務を遂行することが困難と認められる場合及び懲戒により降格処分を受けた場合」にのみ行うことができるのである。このように、「降格」は処分であるから、客観的な基準と手続によって行われなければならないものであり、「役職」は管理職と違って、その地位が保障されなければならないものである。ところが、専任職制度の創設は、満五五歳という年齢のみを理由として、個別的な審査及び手続なしで一律に降格させるものであるから、その合理性の欠如は明らかである。

4 賞与の不利益変更の違法性、不当性

(一) 第一審被告は、業績その他を勘案して支給額が決められるという賞与の本来的な性格に立ち返れば、新専任職制度導入に当たり賞与の支給率を削減したことにつき合理性がある旨主張する。しかし、賞与は、労働の対価である賃金の一部としての性格を有しており、企業の一定の業績等に左右される面はあるとしても、使用者が全く裁量によりその額を定めることができるものではなく、一定のルールが定められて、これに従って支給されるべきものである。本件新専任職制度の導入により、支給率が三〇〇パーセントから二〇〇パーセントに削減されたが、前記のとおり、新専任職に発令された行員については仕事が軽易になったことはなく、仮に軽易になったからといって、基本給が減少したことに伴い賞与額が減少することはまだしも、支給率までもが削減される理由は存在しない。

(二) また、新専任職制度の実施により、賞与の不利益変更は支給率の削減にとどまるものではない。昭和五七年一二月賞与から昭和六一年上期賞与までは、[定例給与×三〇〇パーセント+α]との算式により支払われていたが、定例給与には、基本給、役職手当、管理職手当等が含まれていた。そしてαについては、その内容に変遷はあるが、その特徴として管理職階ではなく、主任や代理といった役職に応じて支払われるものであった。ところが、専任職制度導入後の昭和六一年一二月賞与から、[(基本給+家族手当)×三〇〇ーセント+α]と変更された。右変更は、専任職発令者にとっては二重、三重の改悪となった。

《第一審被告》

一  第一審原告らの主張の変更、追加に対する認否

1 「原審の主張の変更、追加」の項の1の事実は認める。

2 同2の事実のうち、「専任職発令・『新専任職制度』適用がなかった場合の賃金欄」の金額については、第一審原告らが専任職の発令を受けず、かつ標準の勤務査定を受けたと仮定した場合、次に指摘する点を除き、特に争わないが、専任職発令直前までの間の査定経歴から明らかなとおり、第一審原告らが標準の査定を受けた蓋然性は極めて低いというべきである。「専任職発令『新専任職制度』適用による賃金欄」の金額は認めるが、賃金削減額等の主張は争う。

(一) 別紙3(一)(第一審原告徳差)のうち、1(2)の一九九二年六月臨時給与は一七五万一八〇〇円、同年一二月臨時給与は一八二万一八〇〇円である。

(二) 別紙5(一)(第一審原告川端)のうち、1(1)の一九九二年四月から一九九三年三月の間の家族手当は四万五〇〇〇円、合計は五三万三七〇〇円である。

二  第一審被告の当審における主張

(改定された就業規則の合理性について)

1 業績給の削減について

(一) 第一審被告の給与規程では、業績給の定義付けがなされていないが、業績給の本質は、一般職行員における業績給の格付けの仕組みを検討することによって明らかになる。すなわち、一般職行員は、事務職階、監督職階、管理職階のいずれかの職階に格付けされるが、業績給は、その職階別に定められている「業績給表」により号俸をもって格付けされるものである(給与規程一九条)。そして、その昇給号数は、人事考課に基づき査定された号数とされる。このような業績給決定の仕組みから明らかなとおり、業績給は、当該行員が発揮した職務遂行能力の発揮度合に応じて決定される職能給の性格が与えられている。

(二) このような業績給であるから、役職(役職制度運用規程三条では、役職とは、「各職階の各職務を遂行するために必要な能力の水準に基づき、能力基準の段階として設定したものをいう。」とされている。)が降格されたときに、下位役職に相応した業績給に格付けされると同様、職階が変更された場合にも、その変更後の職階に相応しい業績給を支給するという考え方を採用することは合理性を欠くものではない。専任職制度を導入することによって、行員が満五五歳に達すると、全員、「所属長が指示する特定の業務又は専門的業務を遂行することを主要業務とする」専任職に移行することになったのであるから、その専任職移行に伴い業務給を見直すことにしても何ら不都合はないというべきである。専任職の内容が右のようなものであるから、その処遇を他の職階、例えば管理職階や監督職階に比し、その位置付けに相応しい内容に変えたとしても、原判決の指摘するように、「高齢を理由として賃金を削減すること」に当たることはないし、まして、「労働基準法三条に規定する均等取扱の原則に抵触するおそれがある」などという道理もない。

(三) 業績給の内容について、専任職階は、管理職階や監督職階に比べて、組織内の位置付けや予定される職務内容が軽易になるから、業績給のレベルは当然低減されることになる。どの程度の低減が妥当かということは、社内的には、他の職階の業績給体系との比較、対外的には低減された後の基本給額を同規模の他行における賃金水準や地元における世間相場、標準生計費の水準と比較するなどして、総合的に考量して判断することになる。第一審被告が新専任職制度において実施した業績給削減の結果の賃金水準は、賞与支給率の削減を加味しても、なお、他の地方銀行の賃金水準を上回り、青森県や青森市の賃金水準も上回っているものである。

2 賞与支給率の低減について

(一) 第一審被告の給与規程の第三九条は、「賞与の支給額、支給日、支給方法については、業績その他を勘案し、その都度定める。」とし、その支給額決定の基準について、第四四条は、「賞与額の決定にあたっては、支店業績に対する連帯責任としての店舗業績と個々人の職務責任遂行度による個人業績の二つを考課基準とし、各々役職・専任職・管理職に応じ、メリット支給する。」としている。このように、賞与の支給額は、銀行全体の業績と考課(店舗業績と個人業績)により、その都度決められるものとされているが、従来の実績においては、[(基本給+家族手当)×三〇〇パーセント+α(業績メリット)]という支給算式に基づいて算出された金額が支給されてきた。なお、右の業績メリットは、職位・役職別、個人業績・店舗業績別に定められている。

(二) 第一審被告は、新専任職制度の実施に伴い、賞与の支給に関し、過去の実績を踏まえて、専任職に対する支給算式を右の三〇〇パーセントから二〇〇パーセントと変更することとした。そして、右業績メリットについては、当初の専任職制度において、店舗業績につき役職にかかわらず二万円又は一万円、個人業績につき参事、副参事、主査に限り二万円又は一万円とされていたものが、新専任職制度では、そのうち個人業績につき、参事が一四万円又は七万円、副参事が一一万円又は五万五〇〇〇円、主査が六万円又は三万円とされた。この結果、新専任職制度における賞与支給額は、当初の専任職制度のそれと対比すると、主査以上の役職者については個人業績の分が一二万円から二万円の範囲で増額されたが、支給率は等しく二〇〇パーセントに減額され、支給率も低減されたことは事実である。しかしながら、新専任職制度における賞与支給率の低減は、給与規程を変更したというものではなく、従来の取扱いを変更するものであって、しかも、業績その他を勘案して支給額が決められるという賞与の本来的な性格を考えれば、専任職階に移行したことによって責任も担当職務内容も軽易になるのであるから、これに伴い賞与支給額が減額されたとしても、この変更は専任職制度の本旨にも合致するとともに、社会的相当性を逸脱するものではなく、合理性もある。

(原判決の不当性に関して)

1 原判決は、第一審被告が業績給、賞与を削減した結果の賃金水準について他の地方銀行の五五歳の行員の賃金水準などを上回ることを認定しながら、五五歳定年制を六〇歳定年制に改めた他の地方銀行と、もともと六〇歳定年制であった第一審被告とでは同列に論じられないことを理由として、合理性を裏付ける要素としてはそれほど考慮できないと判断したが、誤りというべきである。定年を五五歳から六〇歳に延長することによって生ずる人件費の増大、人事の停滞及び企業活力の低下等の問題を解決するため、五五歳に達した場合に五四歳時の約半額程度の賃金に減額する別個の処遇体系に移行することが経営の必要に基づくやむを得ないものと認められるのであれば、以前から六〇歳定年制を実施してきた第一審被告においても、右のような問題が生ずることは同様であり、同業種の他の地方銀行と同様、人件費負担の軽減、賃金配分の偏在化是正、人事の停滞、企業活力低下の防止等のため、新専任職制度を導入することの経営上の必要性、社会的相当性は当然認められるべきである。

2 原判決は、昭和六二年度から平成三年度に至る間の第一審被告の経常利益が年々増大していることを捕らえ、本件専任職制度実施の業績をみると、業績給の削減と賞与の支給率の削減は、その必要性の程度を超えた内容のものではなかったかという疑いが残ると判断した。

しかしながら、第一審被告は、本件専任職制度及び新専任職制度実施の当時、貸出金利回り、資金調達原価とそのうちの預金利回り、経費率とそのうちの人件費率と物件比率の内訳、一人当たり預金量等平均残高、一人当たり経常利益、一人当たり人件費等の経営効率を示す指標の多くが、全国地方銀行中最下位のクラスであって、厳しい経済環境の下では、これ以上同業銀行に比べて高い人件費負担には耐えられなかったものであり、給与体系を改定する極めて高度の必要性があった。銀行経営にあっては、信用の維持が最大の要務であり、いったん経営内容に不安を与えたときには、営業に大きな支障を生ずるとともに、経営基盤そのものを揺るがせかねない事態に立ち至るおそれがある。第一審被告は、日頃から利益準備金や任意積立金など内部留保の増大による自己資本の充実に努めてきているのも、信用を維持向上させるための一環ということができる。したがって、経常利益が増える傾向にあり、経営危機に陥りそうな状況にないというだけで、新専任職制度を実施しなければならない経営上の必要性を否定することは、銀行経営上の肝要な諸条件に関する理解が欠如していることを示すものである。

3 要するに、本件新専任職制度の実施に伴い、五五歳に達して専任職に移行した行員について、同業他行の五五歳以上の行員の賃金水準に比して決して遜色のない水準を維持する中で、基本給のうちの業績給を削減した第一審被告の給与規程の改定、賞与支給率低減の取扱いは、その内容が相当であり、第一審被告の高度の必要性に基づいたものであることが明らかである。これに加えて、第一審被告の行員の七三パーセントを組織しているみちのく銀行労働組合(以下「労組」という。)が慎重、周到に組織検討を重ねた末に合意していること、選択定年加算金制度の充実、行員融資制度や企業年金制度の改定、行員特別融資制度の新設等の代償措置を定めていること、さらに五年間の経過措置を設けていること等を総合的に考量すれば、業績給の削減を定めた給与規程の改定、賞与支給率の低減変更の取扱いには、十分合理性があり、これを否定した原判決の判断は誤っているといわなければならない。

第三  仮執行の原状回復の申立

一  第一審被告の申立の趣旨

第一審被告に各金員の支払を命じた原判決が取り消され、第一審原告らの請求が棄却されたときは、第一審被告に対し、第一審原告室瀬は五三七万二一二〇円、第一審原告小川は三五四万五八六〇円、第一審原告藤井は二八七万〇五三〇円、第一審原告徳差は一五九万円、第一審原告杉山は一三二万六二八〇円第一審原告川端は三二万五二〇〇円及び各金員に対する平成五年三月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  申立の趣旨に対する第一審原告らの答弁

右申立を棄却する。

三  申立の理由

1  第一審被告は、仮執行宣言付の原判決に基づき、平成五年三月三〇日、第一審原告らに対し右申立の趣旨記載の各金員(元金)を支払った。

2  そこで、当審において、第一審被告に各金員の支払を命じた原判決が取り消され、第一審原告らの請求が棄却される場合には、第一審被告は第一審原告らに対し、民訴法一九八条二項に基づき、仮執行の原状回復として、右支払った金員の返還と損害賠償の支払を求める。

四  申立の理由に対する認否

申立の理由1の事実は認める。

第四  証拠関係

原審及び当審における各証拠関係目録記載のとおりである。

理由

第一  第一審原告室瀬の、第一審被告が同原告に対してした専任職への辞令の発令及び新専任職制度に基づく給与辞令の発令の無効確認を求める訴え、その余の第一審原告らの、第一審被告が同原告らに対してした各専任職への辞令の発令の無効確認を求める訴え、並びに第一審原告徳差、同杉山及び同川端が第一審被告との間で原判決添付の別紙1の(三)ないし(五)記載の各賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を有することの確認を求める訴えについて

一  請求原因1ないし3及び5(当事者の地位、第一審被告の定年制、本件各専任職制度の提案と実施)、同4のうち、第一審原告室瀬に対し昭和六一年五月一日実施された当初の専任職制度に基づく専任職への発令があったこと、同6のうち、第一審原告室瀬に対し昭和六三年四月一日実施された新専任職制度に基づく給与辞令の発令及びその余の第一審原告らに対し専任職への発令があったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  第一審原告らは、右専任職への発令及び給与辞令の発令の無効確認を求めているが、一般にこのような過去の法律行為の無効確認訴訟が許されるのは、その無効を前提とした現在の権利又は法律関係の存否の確定では紛争の解決ができないなど、特段の利益が存する場合に限られる。しかるに本件の場合、第一審原告らは、専任職への発令が無効であることを前提とした法律上の地位の確認及び給付の訴えを提起しているのであって、過去の発令行為の無効確認を求めなければならない特段の利益があるとは認められない。よって、右訴えは不適法である。

三  また、原判決添付の別紙1の(三)ないし(五)記載の各賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位の確認を求める請求につき、原判決は、本来あるべき賃金との差額を求める給付の訴えが提起されているとの理由で、訴えの利益を否定しているが、一定の賃金(その内訳を含めて)の支払を受けるべき労働契約上の地位を有することを確定することは、継続的契約関係である労働契約における紛争を解決する方法として有効適切であり、単に給付訴訟が提起されているとの理由だけでは、その訴えの利益は否定できない。したがって、右訴えは適法というべきである。

第二  当初の専任職制度及び新専任職制度導入の経過及び内容並びに第一審原告らに対する実施状況等について

一  当初の専任職導入に至る経過及び金融情勢について

前記争いのない事実及び証拠(甲第一ないし第六号証、第二八号証、第一〇二号証の二、三、第三一号証の一ないし五、乙第一一ないし第一三号証、第一四号証の一ないし五、第一五、第一六号証の各一ないし三、第一八号証の二、三、第二一号証の一ないし三、第二二号証、第三五号証の四、第三九、四〇号証、原審証人畑山巌、同図司俊之、同飯塚勝英、同坂本憲世、当審証人若松隆及び同蛯名一一の各証言)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1  第一審被告は、昭和五一年一〇月一日、株式会社青和銀行(以下「青和銀行」という。)と株式会社弘前相互銀行(以下「弘前相互銀行」という。)との合併によって成立した銀行である。

合併前の青和銀行の規模は、資本金八億円、預金量約一〇〇〇億円、従業員数約六五〇名、店舗数が三六店舗であり、当時の地方銀行六三行中、預金量の順位は六一位であった。他方、合併前の弘前相互銀行の規模は、資本金二〇億円、預金量約二五〇〇億円、従業員数約一五〇〇名、店舗数が五二店舗であり、当時の相互銀行七二行中、預金量の順位は二二位であった。

2  両行の合併の目的は、経営の効率化による企業体質の強化を目指したものであって、青和銀行においては、当時、地方銀行では急務とされていたオンラインシステムを単独で完成することは、その規模及び経営内容から大きな負担であったところ、弘前相互銀行では、七割方オンラインシステムが完成していたため、両行が合併することにより費用負担の軽減を図ることができること、弘前相互銀行においては、当時、相互銀行特有の高コストという体質が問題とされており、普通銀行に転換してイメージアップを図ることにより、事業を拡大し、経営の効率化を図ることができること、合併により両行の店舗が競合する地区について店舗を統廃合し、経費の削減と効率的な人事配置を図ることができること、等の利点が考えられた。

労働条件については、基本的にはいずれかよい方に調整するものとされ、定年制については、青和銀行が五五歳定年制を採用していたのに対し、弘前相互銀行が昭和二六年から六〇歳定年制を採用していたため、合併に当たっては、六〇歳定年制を採用することになった。なお、地方銀行中で、当時、六〇歳定年制を採用していた銀行は四行に過ぎなかった。

3  第一審被告は、合併により、一〇行ある東北地方銀行の中位行を目指すとの目標を置いたが、昭和五一年下期から昭和六二年までの間の、銀行における経営効率を示す各種指標は、原判決添付の別紙9記載のとおりである。これによると、

(一) 合併直後の昭和五一年下期の状態は、貸出金利回り、資金調達原価が全国の地方銀行六三行中で最高位にあるのに対し、経費率(預金残高に対する経費の比率)、その内訳である物件費率及び人件費率がいずれも最下位から二、三番目、行員一人当たりの経常利益が最下位であり、行員一人当たりの預金量等平均残高が最下位から七番目という水準であるのに、一人当たりの人件費の額は全国の地方銀行の平均値と同額であって、高コスト・高利回りで収益力が弱いという企業体質が如実に示されていた。

(二) 昭和五二年から当初の専任職制度実施の前年である昭和六〇年に至るこれらの指標には、多少の順位の変動はあるものの、第一審被告の貸出金利回り、資金調達原価、経費率(人件費率及び物件費率)、行員一人当たりの預金量等平均残高、行員一人当たりの経常利益については、全国の地方銀行中で最悪あるいはそれに近い順位に低迷していた。

4  この時期の我が国の銀行が置かれていた金融情勢は、おおむね次のようなものであった。すなわち、従前は、臨時金利調整法により金利が低い水準で規制されていたため、銀行は、預金さえ集めれば利益を生むことができたところ、昭和五〇年代後半に入ると、低成長経済の影響で企業からの資金需要が減退するとともに、企業が自己金融力の強化を図るようになったため、貸出金の伸び率は以前の半分程度に止まるようになった。また、法人からの預金も伸び悩む一方で、個人の預金も金利の高い郵便貯金に流れたため、預金の伸びも鈍化し、それまでは第一審被告において二桁台の預金の対前年増加率を示していたものが、三パーセント程度に止まるようになった。さらに、企業の経営悪化に伴い貸出資産の内容が悪化し、その結果として銀行の収益力も低下し、また、国債等の大量発行に伴い、国債を媒体とした金融取引を開始した証券会社に企業の資金が流れるようになり、それに対抗するため、昭和五四年には臨時金利調整法で規制されない譲渡性預金(CD)が創設され、預金金利の自由化が始まった。その後、昭和五六年に証券会社の中期国債ファンドや郵便局の定額貯金に対抗するために、銀行独自の預金として一般定期預金よりは利率の高い期日指定定期預金が、昭和六〇年には市場金利連動型預金(MMC)が創設され、金融の自由化は拡大の一途をたどった。

5  第一審被告においては、合併から一年を経過した昭和五二年一〇月、人事部長を委員長とする人事部スタッフと営業店長等から成る「みちのく銀行人事制度研究会」(以下「人事制度研究会」という。)を発足させ、金融環境が厳しい中での新しい銀行に相応しい人事制度及び賃金体系のあり方について検討を行った。昭和五三年九月には大綱の答申がされたが、これはその後「21世紀への飛翔」として公表され、全行員に配布された。それによると、第一審被告においては、昭和五二年四月の段階では、四〇歳以下の男子行員が八九六人であるのに対し、四一歳以上の行員が五三九人であったが、毎年二〇人の新規採用があると仮定すると、一〇年後の昭和六二年四月には、四〇歳以下の男子行員六一二人に対し、四一歳以上の行員が八八七人となり、中高年層が厚くなると予想され、このような人材構成の高度化に従い、現行役職制度の下で、働きに応じた公正な処遇をしようとすればする程、役職経験者が加速度的に増え続け、その結果、管理職の肥大化現象が顕著となってくること、現行の賃金体系は基本的には年功序列型賃金体系であるので、行員各層個々人の働きに応じた公正な賃金配分という面で大きな壁に突き当たり、五年後には約二億七〇〇〇万円、一〇年後には約五億三〇〇〇万円の人件費が増加し、第一審被告にとって大きな負担となること、さらに、人材構成の高度化は活動力の面での低下が否めず、従業員にとっても役職者が多過ぎて、本来的な役職者としての仕事が与えられず、その結果、行うべき仕事がないためモラルが低下することが懸念されること、等の問題点が指摘されている。

そして、このような問題を解決するために、他行に比較して低い女性比率を増やし、男女構成比の改善に取り組むことにより、人件費の負担軽減を図るのみならず、組織あるいは資格制度を見直すことが必要であり、賃金構造について本給と職能給に分けて、本給については年齢別に五〇歳までは定期昇給とし、職能給については職階別に考課による査定昇給とする、管理職手当についても整理することなどの提言がされている。

6  その後の検討経過は次のとおりである。

(一) この人事制度研究会で提起された問題をさらに具体的に検討するため、人事部のスタッフと労組の執行委員から成る「みちのく銀行労使専門委員会」(以下「労使専門委員会」という。)が発足した。そして、昭和五四年一二月に出された答申において、選択定年加算金制度を新設するとともに、現行の資格、役職、管理職の三本体系を資格体系と役職体系にするとともに、専門職制度による新組織体系を新設し、管理職定年制を導入すること、賃金体系については、人材構成の高度化に伴う下方硬直化を避け、より公平な賃金配分を行うとの観点から、先の人事制度研究会の意見に沿った改正をすることを提案した。

(二) 第一審被告は、右のような労使専門委員会の答申を受けて、昭和五五年四月から選択定年加算金制度を実施し、昭和五七年一月には役職制度運用規程を制定するとともに、給与規程を改定・実施した。

(三) そしてさらに、昭和五七年三月、中高年対策問題にしぼって検討するため、人事部のスタッフと労組執行部委員から成る「みちのく銀行中高年対策労使専門委員会」(以下「中高年対策労使専門委員会」という。)を発足させた。同委員会は、調査役以上の全行員を対象としたアンケート調査の結果を踏まえ、昭和五八年一二月に答申を出した。この答申では、五年後の昭和六三年四月には四四歳以下の男子行員より四五歳以上の男子行員の数が増え、一〇年後の昭和六八年四月には四五歳以上の中高年層の男子行員の割合が54.1パーセントになると予想し、企業活力の維持向上のためには、組織の活性化が不可欠であり、そのためには、五五歳程度を目処にした管理職定年制を導入し、管理職定年時以降の進路については専門職と専任職を新設していずれかに配置すること、管理職定年時以降の賃金については基本給水準確保を前提としながら現行体系とは分離し、担当する業務の実態を見ながら、新しい賃金体系の導入を図っていくこと、選択定年加算金制度については適用開始年齢の引下げと乗率の引上げについて検討すべきことなどを提言した。

(四) さらに昭和五八年六月、第一審被告は、経営課題である高コスト・高利回りという体質から脱却するための方策の検討を目的として、経営者側からは専務取締役ほか支店長クラス四名、労組側から執行委員長ら執行部役員五名から成る「経営体質委員会」を発足させた。同委員会は、様々な角度から問題を取り上げたが、検討状況をその都度「経営体質委員会ニュース」として全行員に配布した。同年一二月二九日発行のニュースでは、第一審被告の抱える問題として、中高年者層を中心とした人材偏在化があるとした上で、「人材の高齢化は、現行賃金制度上総額人件費の増加はもとより、世代間の賃金配分の偏在化といった形をとりながら、行員処遇と行員モラールに大きな影響を与える。」「資金量拡大が、今日の経済環境下で大幅な増加が期待できないことを考え合わせると、高齢化への的確な対策をせず人件費の制度的累増を招くことは、体質強化に向けての全役職員の努力を無にすることになりかねない。」とし、その対応策を模索していく必要がある旨の記事が掲載されている。

7  以上のとおり、第一審被告は、各種研究会、委員会を通じて第一審被告の経営上の問題や対策等を検討してきたが、昭和五〇年代末に至っても人件費率が他行に比して際立って高いという体質は改善されておらず、人材構成の高齢化に伴う人件費配分の是正は避けて通れないものと判断し、昭和六〇年三月二三日、労組に対し、「体質強化のための人事諸施策」として、五五歳到達時以降の賃金水準は他行なみ(五四歳時の賃金の四〇ないし五〇パーセントとする)にしたい、との第一審被告の考え方を示し、協力を要請した。また、第一審原告らが属する従組に対しても、同年四月二日の団体交渉において、同様の説明をし、協力を求めた。

これに対し、労組は、右提案について、組織内部で検討を重ね、昭和六一年一月二〇日の労使協議会において、「五五歳時点で賃金据え置き」「許容できる賃金の削減幅は二〇〜三〇パーセントが限度」などの修正意見を出した。他方、従組においては、五五歳以上の行員の賃金体系等の変更について絶対反対であって、全面撤回を求めるとの立場に終始し、内容に立ち入って是非を論ずるような状況ではなかったため、第一審被告との間でも、具体的な意見交換がなされないまま経過した。

8  このような経過の後、第一審被告は、労組に対しては昭和六一年一月三〇日、従組に対しては同年二月三日、「年齢五五歳以上の賃金体系のあり方について」と題する文書をもって修正の提案をした。その内容は、満五五歳以上の行員の基本給を凍結し、満五五歳に達した管理職階者は、原則として翌月一日以降は別途創設する専任職とし、従前の役職から外れ、また、専任職の賃金は直前役職時の基本給に諸手当(直前職の管理職手当・役職手当を除き、専任職手当を加える。)を加えたものとし、実施時期を同年四月一日とするというものであった。そしてさらに、労組に対しては同年三月三一日、従組に対しては同年四月三日、「体質強化のための人事諸施策について」と題する書面をもって、具体案を提示した。

9  労組は、これを受けて内部で検討した上、第一審被告の右提案を了承することとし、同年四月二八日の労使協議会において、第一審被告の提案のとおり給与体系を改定し、対象者を一般職行員とする当初の専任職制度を導入することを応諾し、同日協定書に調印した。なお、同時に、第一審被告と労組間で選択定年加算金制度を再制定すること、行員住宅融資制度について満五〇歳以降はいつでも返済額を減額し、六〇歳定年時に残額を一括して返済することができる旨改定することなども合意された。これに対し、従組との間では、同年二月二五日及び同年三月二七日に行われた団体交渉において右の問題が議題に上げられたが、実質的な議論に至らず、同年四月三日の具体的提案後も右の問題についての団体交渉が行われたものの、従組が専任職制度について反対の立場を貫いたため、結局、従組との間では合意の成立を見ないまま、同年五月一日から当初の専任職制度が実施された。

なお、第一審被告において、昭和六二年三月当時、行員総数二〇九五名であるところ、従組に所属する行員の数は二四名(1.1パーセント)、労組に所属する行員の数は一五六七名(74.8パーセント)であった。

二  当初の専任職制度実施後の状況及び新専任職制度導入の経過等について

前記争いのない事実及び証拠(甲第二号証、第八号証、第九号証の一、二、第一〇ないし第二四号証、第三一号証の一ないし三、第八七号証、第一〇二号証の二、三、乙第二号証の二、三、第六ないし第九号証の各一、二、第一〇号証、第一六、一七号証の各一ないし三、第一八号証の二、第二〇号証、第二二、二三号証、第四五、四六号証の各一、二、第四七、四八号証、原審証人畑山巌、同図司俊之、同飯塚勝英、同坂本憲世、当審証人若松隆及び同蛯名一一の各証言)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1  昭和六〇年版大蔵省銀行局金融年報は、我が国の金融が構造的変化を遂げつつあるとし、「自由金利商品の拡大により金利の自由化が進むとともに、金融業務が多様化し金融機関等の業際間の垣根も漸次低くなるなど、金融の自由化は着実に進展しつつある。」と総括しているように、その年には、市場金利連動型預金(MMC)の発行枠の拡大や大口定期預金の金利自由化が実施された。このような金利自由化の進展は、支払利息を増加させ、銀行の収益を圧迫する要因として作用することが予想され、とりわけ、小口預金の比重が高い地方銀行、第二地方銀行、信用金庫では、その影響を大きく受けることが予想された。

他方、昭和五〇年代後半から始まった銀行業務の自由化、金融市場の国際化の進展の中で、国際的に銀行システムの安定性の向上を図り、国際的に活動している銀行間の競争条件を平等なものとするため、銀行において自己資本比率規制の国際的統一を図ることが必要であるとされ、昭和六二年ころからその検討が進められた。その後の昭和六三年七月一五日には、バーゼル銀行規制・監督委員会において、自己資本比率規制の国際的統一を図るための基本的枠組みが合意されている。そして、右合意に基づいて、大蔵省は、同年一二月二二日付けの通達で、海外拠点を有する銀行の自己資本比率を、平成五年三月末以降は八八パーセント以上を目標とすると改めた。

第一審被告は、従来から強く希望していた株式の証券取引所への上場について、昭和六二年一二月に東京証券取引所の第二部に、平成元年には同取引所の第一部にそれぞれ上場を実現したが、これは、自己資本を充実させるために、上場により新たな資金調達の途を図ることを狙ったものである。

2  ところで、昭和六一年五月一日に実施された当初の専任職制度によって専任職に発令されたものは約九七人であり、賃金の削減率は、年収七二〇万円の場合、ほぼ一〇パーセント程度であった。昭和六二年一一月一日付けで専任職に発令された第一審原告室瀬の場合、発令前の年収が七一九万七〇〇〇円であり、発令後の年収が六五五万九二〇〇円となった(この点は当事者間に争いがない。)のであるから、約8.9パーセントの削減である。しかしながら、同年九月の調査による第一審被告の五五歳以上の従業員の賃金水準(年収)を、すでに定年延長をしていた同業他行(青森銀行、岩手銀行、東北銀行)及び東北地方銀行の平均値と比較すると、別紙7のⅠ表A欄ないしE欄記載のとおりであって、当初の専任職制度導入後も、第一審被告が非常に高い水準を維持していたことが明らかである。また、同年度の年齢別人員分布を青森銀行、秋田銀行及び岩手銀行と比較したものが別紙7のⅡ表aであって、第一審被告における人材構成の高齢化が顕著である。なお、五年後の平成四年(すなわち新専任職制度導入後)における年齢別人員分布は、同表bのとおりであるが、その傾向に変化はなく、ことに五五歳以上の高齢層比率が他行に比較して格段に高いことが明らかである。当初の専任職制度導入自体による財政的な効果は、初年度で五八〇〇万円程度であり、構造的問題の解決は、先送りされていたという他はない。

他方、前記原判決添付の別紙9によって、その後の銀行の経営効率を示す諸指標を見ると、第一審被告の昭和六一、二年度における貸出金利回り、資金調達原価とそのうちの預金利回り、経費率(人件費率、物件費率)、行員一人当たりの預金量等平均残高、行員一人当たり経常利益については、合併以来一〇年間のそれと比較し、各項目とも多少の順位を上げてはいるものの、全国地方銀行中の順位は、依然として最下位グループを低迷していたことが容易に看て取れる。これに対し、一人当たりの人件費そのものは、昭和六一、二年度において、東北地方銀行はもとより、全国の地方銀行の平均値と対比しても高額である。

また、経常利益は、昭和六〇年度が約三〇億円、昭和六一年度が約四六億円と上昇しているが、青森銀行には約二〇億円の差をつけられており、しかも総資金利鞘が低いため、決した良好な経営体質とはいえない状況であった。

3  以上のような状況を踏まえ、第一審被告の経営者としては、当初の専任職制度では十分でないと考え、その見直しを検討する必要に迫られた。そこで第一審被告は、昭和六二年五月二八日、労組及び従組に対し、同年度の賃金引上げ等の要求に対し、「五五歳以上の賃金水準のあり方を含む新賃金体系を再構築し来年度から実施する」との条件を付けたうえで、賃金引上げ等について回答した。これに対し、労組は右回答を受け入れたが、従組は条件を付けることに応じなかったため、従組との間では右条件を除いた形で賃金引上げについて合意された。その後第一審被告は、同年七月下旬ころ、労組との間では労使協議会の場において、新しい人事制度を作ることを話題にし、従組との間では団体交渉の席上、その旨の使用者側の考え方を示した。そして、同年九月七日、第一審被告は、労組及び従組に対し、「人事制度の改定について」と題する書面を交付し、コース別人事管理制度の導入を提案し、その中で、当初の専任職制度を次のように改定したいと提示した。

(一) 身分について

満五五歳に達した一般職行員及び庶務職行員は、翌月一日付けをもって原則として全員専任職体系へ移行する。

(二) 給与について

イ 専任職発令とともに、「業績給」を一律五〇パーセント減額する。

ロ 専任職手当を廃止する。

ハ 賞与(年間)を次のとおりとする。

参事(基本給+家族手当)×四〇〇パーセント

副参事(基本給+家族手当)×三五〇パーセント

主査・主事・庶務職(基本給+家族手当)×三〇〇パーセント

(三) 昭和六三年四月一日から実施する。但し、当該者の生活プランを勘案し、五年間の経過期間を置く。経過措置については、追って提示する。

(四) 担当職務について、今回の処遇面の改定に際し、次の点について徹底を図ることとする。すなわち、専任職の職務については、五四歳までの職務経験、保有能力を勘案し、自己完結型の特定業務又は専門的業務に従事させ、移行以前と全く同じ仕事は与えないものとする。

4  右提案の理由として、第一審被告は、「金融の自由化・国際化の進展に伴い、経営環境は一大変革期を迎えている。この中で、銀行業務は必然的に高度化・多様化の様相を呈しているが、かかる変革期にあって、当行が新たな前進をしていくためには、新しい時代に対応した新しい人事制度の構築が求められる。」とし、「当行の場合、六〇歳定年制の関係から高年者層への人件費の偏在化という構造的課題がある。人員構成の高齢化に伴い、この傾向は年を追うごとに顕著となり、結果として総人件費を圧迫し、企業の発展と活力の中核を担う若手・中堅に対する処遇が極めてバランスを欠いたものとなっている。一大変革期を迎え、それぞれの職務の役割期待がこれまでの延長線上にはない今日、年齢や勤続年数に基づく年功的処遇は見直しを迫られている。」と説明している。そして、右提案にかかる賃金の減額幅については、これを完全実施した場合の賃金(年収)が別紙7Ⅰ表のF欄記載のとおりであって、これを東北地方銀行の平均値と比較すると、同表G欄記載のとおりの開きがあり、第一審被告の方がなお三〇パーセント以上の高水準にあること、昭和六二年の青森県における全産業平均年収が約三六二万五〇〇〇円であること(青森県経営者協会発表のもの)、青森市における勤労者世帯の家計消費支出額が約三二七万六〇〇〇円であり(大蔵省青森財務事務所発表のもの)、四人世帯の年間標準生計費が約二七九万〇三六〇円であること(青森県人事委員会発表のもの)等に照らしても、五五歳以上の従業員の賃金としては、決して遜色のないものであること、等との判断によるものである。

5  これに対し、労組からは、労使協議会の席上等で質問や要望が出されたため、第一審被告は、同年一二月一八日、労組に対し、「『新人事制度に関する貴組合からの質問事項』に対する回答並びに『新専任職制度についての追加提案』について」と題する書面を交付した。その中で、第一審被告は、専任職制度改定の理由として、「ここ数年、当行では、定年六〇歳に伴う高齢化が顕著になったにもかかわらず、抜本的な構造改善を行わないままに、年々の賃金を実施してきた。この結果、①一人当たり人件費では東北地銀のトップクラス、②五五歳以上の賃金は全国でも例のない高い水準、③五四歳以下、とりわけ大きな役割期待が寄せられている管理職や能力の進展が著しい係長代理クラスでは年収において格差が生じてきている。最早こうした対応の仕方では、単にコストの面からばかりではなく、全体のモラールという面からも限界に達しているというのが、今回の制度改定の理由である。」と説明している。そして、この書面の中では、追って提示するとされていた業績給五〇パーセント減額と専任職手当の廃止についての移行措置について具体的に提案されている。

第一審被告は、同日、従組に対しても、「新専任職制度についての追加提案」と題する書面を交付した。

6  さらにその後、第一審被告は、昭和六三年二月一二日、労組及び従組に対し、修正の提案を行ったが、最終的に同年三月二三日、第一審被告と労組との間で、満五五歳に達した一般職行員及び庶務職行員は、翌月一日付けをもって原則として全員専任職体系へ移行すること、専任職の基本給のうち業績給は原判決添付の別紙2「基本給」欄記載のとおり段階的に削減し、昭和六七年度以降は満五五歳時の五〇パーセントにすること、専任職手当も同じく「専任職手当」欄記載のとおり段階的に削減し、昭和六七年度以降は廃止すること、賞与についても支給率を同じく「賞与」欄記載のとおり段階的に削減し、昭和六七年以降は二〇〇パーセントとすること、そして以上のような新専任職制度を同年四月一日から実施することを合意し、協定書に調印した。この協定書には、新専任職制度実施に伴う代償措置として、次のような関連諸制度の改定又は新設の条項が記載されている。

(一) 選択定年加算金制度の改定

選択定年加算金の支給算式(加算金額=基本給×支給乗数)の支給乗数を現行より五ないし一〇ポイント引き上げる。

(二) 行員特別融資制度の新設

専任職行員の冠婚葬祭等に係わる出費に対し、その援助を目的として特別金利によるローンを新設したものであり、専任職行員は、三〇〇万円以内の金員を、利息年四パーセント、返済期間が五年以内という条件で第一審被告から借り受けることができる。

(三) 行員住宅融資制度の改定

行員住宅融資制度の返済猶予の方法について、現行の規定に加えて、審査のうえ満五五歳に達した者は融資残高について元金の返済を定年退職時に一括返済することもできるという規定を新設する。

(四) 企業年金制度の改定

専任職の賃金減額に伴い年金水準が低下するため、その補完を目的として、企業年金に関して、年金額を月額六万五〇〇〇円(現行は六万円)、掛金の銀行負担月額を一万二三九〇円(三一〇円増)、行員負担月額を二七〇〇円(一八〇円増)と改定する。

7  これに対し、従組は、新しい専任職制度の実施にあくまでも反対であるとの立場を取り続けたため、結局、第一審被告と従組との間には新専任職制度についての合意は成立しなかった。

8  以上のような経緯を経て、第一審被告は、昭和六三年四月一日、新専任職制度を実施した。同時に改定作業が行われていたコース別人事管理制度が実施されたのは、平成元年一〇月一日である。

なお、昭和六三年三月の段階において、第一審被告の行員数は二〇一九名であるところ、このうち労組に所属する行員が一四八二名(73.4パーセント)であり、従組に所属する者が二三名(1.1パーセント)であった。

三  第一審被告の就業規則(これと一体をなす役職制度運用規程、給与規程を含む。)及びその改定について

各専任職制度導入の経緯と背景事情については、以上見たとおりであるが、各制度の導入は、第一審被告の就業規則その他の内部規定の変更を伴うものである。この点については、証拠(乙第一、二号証の各一ないし三、第三号証の一、二、第五号証、第一〇号証、第四四号証の一ないし三)によれば、次のとおり認められる。

1  第一審被告において、当初の専任職制度導入前の就業規則では、行員とは第一審被告に勤務する職員(一般職行員、庶務職行員、傭人、嘱託、臨時雇用者及び試雇者)のうち、一般職行員、庶務職行員及び試雇者をいい、行員の給与については、別に定める給与規程によるとされ、これに基づき「給与規程」が定められている。また、就業規則上に明文はないものの、その性質上就業規則の一部と認められるものとして、行員の処遇を適切かつ公正に行い、行員自らの能力の開発を促進し、もって銀行の業績発展に資することを目的とする「役職制度運用規程」が存在する。

2  右役職制度運用規程によれば、職階とは、「職務を遂行するに必要な知識技能など職務遂行能力の共通性、類似性及びその程度によって職務をグルーピングしたもの」をいい、職階を管理職階、監督職階、一般職階及び庶務職階に分類する。管理職階は、専門知識と経験及び管理能力を有する組織単位の長又は次席の職位で、具体的な職務は部店長、副部店長、次長、課長であり、監督職階は、一般事務職の上位に位し、上位管理者の指示や基準規程に準拠し、下位の事務職担当者の業務遂行作業を指導・点検・改善する職位で、具体的な職務は係長、主任であり、一般職階は、上位者の指導・監督のもとに定型的日常業務を反復遂行することを主要職務とする職位で、具体的な職務は営業係、融資係、渉外係であり、庶務職階は、所属長の指導・監督のもとに一般的な銀行業務以外の作業及び事務を遂行することを主要職務とする職位であり、具体的な職務は自動車運転手、電話交換手、タイプ、用度係などである。

3  そして、役職制度運用規程においては、役職とは、「各職階の各職務を遂行するために必要な能力の水準に基づき、能力基準の段階として設定したもの」をいうとされ、一般職行員については、一般職職階にあるものが役職として事務職(初級、中級、上級)に、監督職階にあるものが役職として主任、係長(初級、上級)に、管理職階にあるものが役職として代理(初級、上級)、調査役(初級、上級)、主任調査役(初級、上級)に、それぞれ分類され、庶務職階については、役職として庶務職(初級、中級、上級)に分類され、各役職に対応する職務及び能力との関係については「役職別職務職能基準書」のとおりとされている。

4  次に、給与規程においては、行員の給与は、①本給と業績給とから成る基本給、②主任以上の役職者に対して支給される役職手当、管理職を発令された者に対し役職手当とともに支給される管理職手当、扶養家族のある行員に対し支給される家族手当等から成る諸手当、③業績その他を勘案して、支給額、支給日、支給方法についてはその都度定める賞与等からなると定められていた。

5  当初の専任職制度の実施に伴う就業規則等の内容について変更は次のとおりである。

(一) 行員とは、第一審被告に勤務する職員(一般職行員、専任職行員、庶務職行員傭人、嘱託、臨時雇用者及び試雇者)のうち、一般職行員、専任職行員、庶務職行員及び試雇者をいうと改定された。

(二) 役職制度運用規程も改定され、職階を管理職階、監督職階、事務職階、庶務職階の他に、専任職階を新設し、専任職階とは、「所属長が指示する特定の業務又は専任的業務を遂行することを主要業務内容とする職位をいう」と定義し、その具体的な職務については、「特定の集中業務、特殊債権の管理業務、特殊先の渉外業務ほか」を行うものとした。また、役職について、前記の一般職行員と庶務職行員における各分類のほか、専任職行員について、役職として専任職(その内容は主事、主査、副参事、参事)を定めた。そして、一般職行員が満五五歳に達したときは、原則としてその翌月一日をもって専任職に格付けするとし、その格付は直前の役職により、①主任調査役・調査役が参事に、②代理が副参事に、③係長・主任が主査に、④事務職が主事にそれぞれ移行する旨規定された。

(三) 給与規程も改定され、①満五五歳到達者の基本給は、当月末の基本給をもって翌月一日で凍結する、②専任職に発令された者に対し専任職手当を支給するとし、主査には、従前主任であったものには一万五〇〇〇円、係長初級であったものには二万五〇〇〇円、係長上級であったものには二万六〇〇〇円が、副参事には三万円、参事には四万円がそれぞれ支給されることになった。

6  新専任職制度の実施に伴う変更は次のとおりである。

(一) 就業規則の文言上の変更はない。

(二) 役職制度運用規程については、庶務職行員が専任職に格付けされるときは専任庶務に移行する旨の規定が挿入された。

(三) 給与規程については、満五五歳到達者の業績給につき、当月支給額の五〇パーセント相当額とし、翌月一日から適用する、ただし、五年間の経過期間を設け、昭和六三年度が九〇パーセント、昭和六四年度が八〇パーセント、昭和六五年度が七〇パーセント、昭和六六年度が六〇パーセントの支給率を適用するとした。また、専任職手当については、専任職を発令させた者に対し所定の手当を支給するとしたものの、昭和六三年度から五年間で漸次減額し、昭和六七年度にこれを廃止する旨改定された。

(四) 賞与については、給与規程では、「賞与の支給額、支給日、支給方法については、業績その他を勘案し、その都度定める」とし、「賞与額の決定にあたっては支店業績に対する連帯責任としての『店舗業績』と個々人の職務責任遂行度による『個人業績』の二つを考課基準とし、各々役職・専任職・管理職に応じ、メリット支給する」としていて、文言上の変更はなく、「メリット支給」の基準となる考課方法の定めにも変更はない。このように、賞与の具体的な支給額は、給与規程そのものには定めがなく、銀行全体の業績と考課によりその都度決められるものとされているが、従来の運用は、[(基本給+家族手当)×三〇〇パーセント+α(業績メリット)]の算式によって算出されていた。第一審被告は、新専任職制度の実施に伴い、これを原判決添付の別紙2「賞与」欄記載のとおり改めた。

四  第一審原告らに対する各専任職発令と不利益の程度及び職務内容について

1  第一審原告らに対して各専任職の発令があったことは前記のとおりであるが、第一審原告室瀬が専任職に発令された月から平成四年一〇月定年退職までの間に受領した賃金が原判決添付の別紙3(二)記載のとおりであり、専任職に発令されなかったと仮定した場合に受領することができたはずの賃金が同3(一)記載のとおりであること(ただし標準の査定がされたと仮定した場合である。以下同じ。)、その余の第一審原告らがそれぞれ専任職に発令された月から平成四年三月までの間に受領した賃金が原判決添付の別紙4ないし8の各(二)記載のとおりであり、平成四年四月から平成七年三月まで(ただし、第一審原告小川は平成六年二月、第一審原告藤井は同年四月に定年退職するまで)の間に受領した賃金が本判決添付の別紙1及び2ないし5の各(一)、(二)の2欄記載のとおりであること、仮に専任職に発令されなかったと仮定した場合に受領できたはずの賃金のうち、平成四年三月までの分が原判決添付の別紙4ないし8の各(一)記載のとおりであり、同年四月以降の分が本判決添付の別紙1及び2ないし5の各(一)、(二)の1欄記載のとおりであること、以上は当事者間に争いがない(ただし、第一審原告徳差の平成四年の臨時給与の額及び第一審原告川端の平成四年四月から平成五年三月までの家族手当の額を除く)。

2  以上をまとめて表示すると、本判決の別紙6のA欄及びB欄記載のとおりである(ただし、第一審原告徳差の平成四年の臨時給与の額は、当事者間に争いのない額を限度とし、第一審原告川端の平成四年四月から平成五年三月までの家族手当については、別紙5(一)の記載が第一審被告主張のとおりの誤記と認められるので、それに従った。)。そして、専任職に発令されなかったと仮定した場合に受領できたはずの賃金と、専任職に発令された結果支給された賃金との差額は、別紙6のC欄記載のとおりである。この差額の中には、家族手当の減少のように専任職導入とは無関係の部分も含まれるが、これを一応度外視して各人につき減額率を計算すると、別紙6のD欄記載のとおりとなる。

3  次に、第一審原告らの職務内容についてみると、証拠(甲第三八ないし四二号証、第一三七、一三八号証、原審証人図司俊之の証言、第一審原告室瀬及び同杉山の各供述)並びに弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。

(一) 第一審原告室瀬

専任職発令前は、本町支店において出納(店頭混雑時における大口、複雑入出金等の取引、渉外係集金及び貸付係などの取次、庶務係などの直接顧客に関係ない内部発生の現金取引を扱う。)兼テラー(一般の窓口発生収支取引を扱う。)を担当していたが、専任職発令後はテラーのみの担当となった。その後一時、出納兼テラーの仕事に戻ったが、渉外係として集金を中心とした仕事になり、平成四年一〇月定年退職した。

(二) 第一審原告小川

専任職発令前は、本町支店において営業課長の職にあり、専任職発令後一か月間は、同支店において営業課長の職務の一部を代行するとともに検印事務の代行も行っていたが、その後、石江支店に転勤となり、融資課長の下で融資業務を担当し、平成六年二月定年退職した。

(三) 第一審原告藤井

専任職発令の前後を通じて、大畑支店において出納業務を担当していたが、平成六年四月定年退職した。ただし、同支店は小規模店であって、出納業務の事務量自体、さほど多くはない。

(四) 第一審原告徳差

専任職発令前は、浅虫支店において渉外課長の職にあったが、専任職発令後は、渉外課長から外された。そして、同支店において渉外業務を担当していたが、二か月後に大鰐支店に転勤となり、同支店でも渉外業務を担当している。

(五) 第一審原告杉山

専任職発令前は、中里支店において融資課長の下で(役職は代理)、融資受付、延滞手形期日管理などの各種管理業務、一部検印業務の代行を担当していたが、専任職発令後は、検印代行の権限はなくなったものの、引き続き融資受付、各種管理業務を担当し、平成五年に規模の小さい小浜支店に転勤となり、さらにその後、小柳支店に転勤となり、渉外業務を担当している。中里支店における担当業務の項目は多岐に渡っているが、三、四年の融資実務の経験があれば、おおむねこなしていけるものである。

(六) 第一審原告川端

平賀支店において、専任職発令の前後を通じて出納を担当しているが、専任職発令後は、検印代行の担当からは外されている。

第三  就業規則改定の効力について

一  就業規則の改定によって、労働者の権利・利益を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、労働条件の集合的処理を建前とする就業規則の性質からいって、当該条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことはできないと解される。そして、右合理性の判断に当たっては、就業規則の変更によって労働者の被る不利益の性質、内容及び程度と変更の必要性及びその内容とを比較考量し、変更に至る経緯をも合わせ総合してこれを決すべきものである。

そこで、以下このような観点に立って検討する。

二  専任職創設の必要性について

1  第一審被告は、昭和五一年に合併して以来、その経営効率を示す各種指標は高コスト・高利回りで収益力が弱いという企業体質を示しており、ことに人件費率は全国の地方銀行中で最悪あるいはそれに近い順位にあったこと、その原因が中高年層を中心とした人材構成の高齢化にあり、「働きに応じた公正な処遇をしようとすればする程、役職経験者が加速度的に増え続け、その結果、管理職の肥大化現象が顕著となり、行員各層個々人の働きに応じた公正な賃金配分という面で大きな壁に突き当たり、また企業活力の面での低下が否めず、行員のモラル低下も懸念される」ことが、すでに昭和五三年に人事制度研究会において指摘されていた。昭和五〇年代後半から進展した金融の自由化という厳しい経営環境の中で、人材構成の高齢化に伴い増大する人件費を削減し、賃金配分の偏在化を是正するとの観点に立った組織改革を行うことは、第一審被告の経営者にとっては、まさに一〇年来の懸案事項であり、避けて通れない問題であり、このことは、全行員の七〇パーセント以上の組合員を擁する労組にとっても共通の認識となっていたことが認められる。

そして、この組織改革は、当初の専任職導入と新専任職の導入という二段階に分けて実施されたが、前段認定の事実からすれば、当初の制度導入によって問題が解消し、新たに発生した事態に対処するため新制度を導入したという関係にはなく、その必要性は継続していたことが明らかであるから、両者は、段階を追って実施された一体のものとして考察する必要がある。原判決は、当初の制度導入の必要性を肯定しながら、青森県内では有数の企業である第一審被告が経営の危機に瀕して五五歳以上の行員の給与を大幅に低減させなければ経営が成り立たないという状況にはないとして、新制度のうち業績給の削減と賞与の支給率の削減について、必要性の程度を超えたものであるとした。なるほど、第一審被告の経営が危機的状況に陥っていたと認めるに足りる証拠はないが、いったん銀行の経営が危機に瀕した場合には信用不安を惹起し、深刻な社会的問題に発展するおそれのあることは明らかであって、そのような危機的状況に至らなければ組織改革の必要性がないとすることは到底できない。

2  第一審原告らは、第一審被告が順調に収益を伸ばし、利益も増大させており、その経営分析からも、本件の各専任職制度を導入する必要はなかったと主張し、当審証人山口孝はこの主張にそう証言をし、甲第一六八号証にもその旨の記述がある。なるほど、証拠(乙第四五、四六号証の各一、二)によると、昭和五九年から同六二年にかけて第一審被告の経常利益は三二億円から三九億円と伸びてはいるものの、同じ地方で競合する青森銀行には約一〇億円の差をつけられ、自己資本比率においてもかなりの差をつけられていることが認められるのであり、第一審被告が、他行との比較において、高利回り・高コストという脆弱な企業体質にあったことは前示のとおりであるから、右証言及び説明は採用できない。

三  専任職制度創設の合理性について

1  当初の専任職制度は、「所属長が指示する特定の業務または専任的業務を主要業務内容とする職位」として専任職階を創設し、職務内容を「特定の集中業務、特殊債権の管理業務、特殊先の渉外業務」と位置づけ、一般職行員が満五五歳に達したときは、原則として専任職に移行することにした。そもそも、事業の効率的遂行のためどのような企業組織を編成し、どのような労働者を配置するかは、広い意味での使用者の人事権に属する事項であって、右のような専任職階を創設したことは、一定の年齢に達した行員を一律に従前の役職から外して、軽易な業務内容の職位に移行させ、若手・中堅行員に早く昇進の機会を与えて人事停滞による組織の硬直化と企業活力の低下を防ぐという、第一審被告の人事権に基づく組織改革の必要から出たものであると解され、その合理性を肯定できる。

2  第一審原告らは、第一審被告の業務の中で、「特定の集中業務、特殊債権の管理業務、特殊先の渉外業務」なるものは独立して存在しないとし、現に専任職発令の前後を問わず職務内容が同一の場合があるし、満五五歳になっても専任職に発令されない者も多数いるから、この制度を導入する必要があったとする第一審被告の主張は疑問であると主張する。しかしながら、役職制度運用規程や労組及び従組に対する説明書(乙第一、二号証の各二、第七、八号証の各一、二)によると、専任職の職務は、軽易かつ定型的な業務として位置づけられ、指向されていることが認められるのであり、証拠(乙第五二ないし五六号証及び証人蛯名一一の証言)によると、平成六年一〇月一日までに専任職に発令された者の延人員は四九四名に達するが、中には人員配置の関係上、発令が満五五歳到達時から若干ずれたケースもあること、それ以外に満五五歳を過ぎても発令されず、部長、支店長等の職にとどまっている者が十数名存在するが、これはそれぞれの個別事情に基づく例外措置であること、発令後も従前の業務に従事させている場合もあるが、これは本人の保有能力や希望等を勘案して、これ以上軽減をはかることができない程度の業務であるためであって、その場合でも業務目標は軽減されており、いずれにしても、部下の管理監督を伴う業務は担当させないことにされていること、等の事実が認められる。要はその運用にかかっているものというべきであり、若干の例外の存在は、制度そのものの合理性の判断を左右するものではない。

3  また、第一審原告らは、高齢者の人権保障の観点からも合理性がないと主張するが、前段で認定したところによれば、むしろ高齢者の雇用を確保しながら、賃金配分の是正を図ったものといえるのであって、右主張は理由がない。

四  賃金の低下を伴う変更の相当性について

1  給与面の変更は、まず当初の専任職制度において、基本給(本給と業績給から成る)の満五五歳到達月での凍結と専任職手当の支給を制度化し、次いで新専任職制度において、基本給の構成部分である業績給を五〇パーセント減額し、専任職手当を廃止し、賞与の支給算式のうち支給率三〇〇パーセントを二〇〇パーセントとする取扱いに改める、というのがその概要である。

2  ところで、証拠(甲第一二五号証、乙第一、二号証の各三及び当審証人小川常美の証言)によると、業績給とは、人事考課に基づき各役職別テーブルに従い決定されるものであって、職務遂行能力を発揮した度合いに応じて支給される職能給たる性質を有するものであり、役職手当・管理職手当は、それぞれ役職・管理職にあることの故に支給されるものであることが認められる。そうすると、軽易な業務内容の職位として位置付けられる専任職に移行することによって業績給が減額されるのは、その程度はともかくとして、やむを得ないところであるし、役職・管理職から外れれば、役職手当・管理職手当が支給されなくなるのは当然である。また、賞与の額は、給与規程では「業績その他を勘案しその都度定める」とされているだけであるから、右の変更は給与規程の変更ではない。そして、支給額の決定に当たっては、業績が考課基準とされていたのであるから、専任職の業務内容に応じた金額の見直しがされるのも、その程度はともかくとして、やむを得ないところというべきである。

3  第一審原告らは、専任職への移行による役職手当の喪失は既得権の侵害であり、また、基本給の凍結は、毎年ベースアップによって基本給が増額されるという既得権を害するものであると主張するが、役職とは、前記のとおり「各職階の各職務を遂行するために必要な能力の水準に基づき、能力基準の段階として設定したもの」であり、役職手当は、当該役職に対応して支給されるものである以上、既得権ということはできないし、毎年の基本給の増額は一種の期待的利益というべきものであるから、理由がない。また、第一審原告らは、業績給の削減、専任職手当への移行による役職手当の廃止及び専任職手当の廃止について、降格処分との対比において、その不当性を主張するが、専任職制度の導入とこれによる専任職への発令は、懲戒などの個別的人事権の発動としての降格処分として行われたものでないことは明らかであって、右の非難は当たらない。

4  次に変更の影響について見るに、右ないしが、該当する個々の労働者に少なからざる不利益をもたらすものであることは明らかであって、第一審原告らに対する影響の程度は、別紙6に要約したとおり、決して小さなものではない。しかしながら、右の賃金の減少は、いわば将来の期待的利益の喪失という不利益であるし、新専任職制度を完全実施した場合の専任職行員の賃金(年収)は、別紙7Ⅰ表のF欄記載のとおり四〇五万円ないし四九八万円となり、これと昭和六二年九月時点での調査による東北地方銀行の平均値との差額は同表のG欄記載のとおりであるから、東北地方銀行の平均値を基準として約一三〇パーセント以上の高額である(第一審原告らの場合、別紙6の各B欄記載の数値を年換算してみると、約四五七万円ないし五七四万円となるから、さらに高額である。)。したがって、新専任職制度を完全実施した場合においても、第一審被告の五五歳以上の行員の賃金は、同じ地域の同業他行の五五歳以上の年齢層の行員に比較して、かなりの高水準を維持していることが看て取れる。そして、青森県における全産業の平均年収、青森市における勤労者世帯の家計消費支出額、標準生計費等の数値と対比してみても、遜色のないものであることが明らかであるし、段階的な移行緩和措置が取られていることに加え、選択定年加算金制度の改定(支給乗数の引上げ)、行員特別融資制度の新設(特別金利によるローンの新設)、行員住宅融資制度の改定(返済猶予)、企業年金制度の改定(年金額の増額)等の代償措置が設けられている。これらを合わせ考えると、給与面での不利益が社会的相当性を逸脱し、不当なものとまではいえない。

5  証拠(乙第四五号証の一、二、第四八号証、第四九号証の一ないし四及び当審証人若松隆の証言)によると、専任職制度導入による人件費削減の効果は、平成四年には約一〇億円に上るが、人件費そのものは昭和六二年度の一三四億円から平成四年度は一四二億円に増加していること、そして四〇歳から五〇歳までの中堅層の賃金が、昭和六二年では東北の同規模地方銀行の中では下位に属していたのに、平成四年には中堅層の賃金に格段の改善が行われていることが認められ、組織改革の実が進んでいることが窺える。

五  専任職制度導入に至る方法の相当性について

第一審被告の組織改革の問題は、多数の組合員を擁する労組の執行部を交えた労使専門委員会、中高年対策労使専門委員会、経営体質改善委員会等で長期間にわたって研究討議され、さらに昭和六〇年三月、第一審被告が「体質強化のための人事諸施策」として正式提案してからは、労組との間では、労使協議会の席を通じて討議が重ねられて合意に至ったものであるから、制度の内容には多数従業員の意向も反映されていると評価することができる。なるほど、第一審原告らが加入する従組との間では、内容に立ち入った討論がされず、合意にも至らなかったが、それは従組が絶対反対の態度を取り続けていたからであって、多数の組合員を擁する労組との長期にわたる討議と合意の成立という事実は、合理性判断の要素としては無視できないものというべきである。

六  総合判断

従来、定年が五五歳であったところ、これを六〇歳に延長するに当たり、いわばその見返りとして賃金を五五歳時の半額程度に押えることとして制度改革を進める企業が多数あることは公知の事実であるが、本件はそれと異なり、すでに六〇歳定年制が実施されていた銀行が五五歳到達時からの賃金を低く押えようとするものであって、該当する労働者の不利益は決して小さくはない。しかしながら、以上示したところによると、第一審被告には、専任職制度の創設という方法によって組織改革を行うにつき、高度の必要性があったものということができ、この制度採用によって行員が受ける不利益の内容及び程度、同時に行われた代償措置、同業他行の同年配行員との比較、多数組合員を擁する労組との合意等の諸事情を総合すると、この制度導入に伴う就業規則の改定及び賞与の支給率の変更は合理性を失わないものと認めるのが相当である。

したがって、本件就業規則(これと一体をなす内部規定を含む。)の改定につき、第一審原告らがこれに同意していないことを理由として、その適用を拒むことはできず、第一審原告らに対する専任職への発令は有効と認めるべきである。

第四  結論

以上のとおりであるから、専任職への発令が無効であることを前提として従前の制度によって計算した賃金との差額の支払を求める第一審原告らの請求は失当というほかはない。そうすると、原判決のうち、右請求を棄却した部分は相当であるから、控訴は理由なしとして棄却するが、これを認容した部分は不当であるから、これを取り消し、右部分の請求及び当審で拡張された請求はいずれも理由なしとして、これを棄却すべきである。

また、冒頭で示したとおり、第一審原告徳差、同杉山及び同川端の地位確認の訴えを却下した部分は不当ではあるが、右請求は同原告らへの専任職への発令が無効であることを前提としたものであって、これが理由のないことは、以上の説示から明らかであるから、右部分の控訴は棄却することとし、第一審原告室瀬に対する専任職への発令と新制度に基づく給与辞令の発令の無効確認を求める訴えについて、訴えの利益がないとして、これを却下した原判決は相当であるから、右部分の控訴は理由なしとして棄却するが、その余の第一審原告らの専任職への発令の無効確認を求める請求を棄却した原判決は不当であるから、これを取り消して、右部分の訴えを却下することとする。

よって、第一審被告の申立に基づく原状回復と損害賠償につき、民訴法一九八条二項を、訴訟費用(右申立費用を含む。)の負担につき同法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官原健三郎 裁判官杉山正己 裁判官永田誠一は転補につき署名捺印することができない。 裁判長裁判官原健三郎)

別紙〈省略〉

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